年頭の御挨拶を申し上げます。本年も宜しくお願いします。

           2010年 1月1日   斉藤 孝


フランスでは、先人が捧げた知識の体系化の偉業を理解させるために学生を図書館に連れて行き、『百科全書アンシクロペディア』を見学させるそうです。18世紀フランス革命に影響を及ぼしたダランベールとディドロによって完成した『百科全書』は、宗教や法律、制度、習俗などに潜む背理や不条理を批判する目的を持っていました。 そして人間の知識には秩序という分類体系があり、それを学び取る分類思考の素晴らしさを明らかにしました。

オントロジ(分類思考)の研究に明け暮れた年でした。成果は『社会科学情報のオントロジ』と題する書籍にしました。 そのオントロジ研究の続きですが、学生ゼミで素朴な収穫を得ることができました。ある書籍の主題内容を分析することです。それは、「水村美苗著『日本語が亡びるとき』(筑摩書房, 2008)」という刺激的な問題作です。西洋の衝撃を浴びて、豊かな近代文学を生みだした日本語が、いま英語の世紀の中で「亡びる」とは、どういうことかを問い続けます。なかなか格調高い内容で、学生諸君にとって難解な部分もあったようですが、ゼミの終了時までに、彼らの実力の範囲内で目的であるオントロジの視点から主題分析(主題K-Map)できました。人気のないゼミですが、学生諸君には秘めた研究心があることを見つけて感激しました。

  さて嘆かわしい世相です。市場経済 の活性剤とされたケイタイとクラウド・ネットなどのITは、むしろデフレ経済地獄を呼び込む厄病神でした。小売流通業界、出版新聞業界、放送広告業界、金融業界、製造業などの 崩壊していく苦しむ姿を見れば、爛熟した資本主義にも限界があるように思えます。悪夢の社会主義に再来を願うという歴史は繰り返す時代がきたようです。自然と人情、伝統と品格を大切にする日本的社会主義を期待したいものです。 武士道と自由民権を忘れてはなりません。

  私事ですが祝い事は、3月に長女啓子のところに 孫(悠真)が誕生したことです。悲しい事は、7月に栄子の母壽(98歳)が他界したことです。 1911年に京都で生まれて激動の20世紀を生き抜き、最後まで明るく前向きに過ごしておりました。曾孫の顔も見ましたので大往生でした。みなさまから悲しい便りも多く、心の中の場所が故人で占められことも多くなりました。母トミ(88)は、曾孫の悠真の姿を67年前に中国青島で生まれた私と重ねて、昔日を懐かしんでいます。栄子と次女の洋子は、韓国ドラマに熱中していますから今年は韓国の旅を計画します。

  私は酒乱に疑似痴呆が加わり、言動も怪しくなりましたが、日々の酒盛りは続けています。 片瀬山の30数年にわたる伝統のテニスでは、枯れ木や老害テニスとされ若者から軽蔑されていますが、マムシのような執念で毎週、天高くボールを打っています。趣味のガーデニングでは、友人たちと葡萄や野菜の数々、軽井沢での山野草、鵠沼での薔薇など の四季の花々を手入れしています。どこにいても自然、友人そしてお酒に囲まれて幸福です。

             みなさまの御健康と御活躍を希望いたします。


 

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