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   猪食いつく誌(その1)           大河原新太郎


   早朝ゴルフ場の支配人から「いのししが獲れたのだが、いるならば取っておくがどうしましょう」という電話が入った。

「それでは、足の1本も分けてもらえたら有り難い」と、状況が呑み込めないまま答えると先方は、「1頭まるごと持っていってもらわないと困る」という、とっさに懇意の肉屋さんの顔が浮かんだ、共通の知り合いである、彼に解体してもらっておすそ分けをもらえたら、と。

支配人は「今年はいのししが一族郎党引き連れてゴルフ場出没し、コースを掘り返し大変な被害を受けている。罠を仕掛けたところ、すでに十数頭つかまえた。はじめのうちはめずらしさもあって知り合いに配っても喜んでもらえたが、最近は引きとりてがなく肉屋さんも解体するのをいやがっているので埋めている。このあたりは台風の影響は少なくこの時期くりやどんぐりが豊富で、この連中の食生活はかなり豊かで肉もおいしいはずなのですが」とのことであった。

GIBIERの王者も引きとり手がないとは情けない、なんとしてもワインで内臓や血も一緒に煮つめた濃厚なソースで食ってやろうじゃないかという闘志が湧いてきた。

早速、くだんの肉屋さんに電話、しぶしぶ承諾してくれたので片道150キロもものともせずにとびかえり、ゴルフ場の管理棟に向かった。

後ろ足をしばられ、パワーショベルにさかさ吊りにされたいのししは私の背丈より大きかった。内臓はすべて取り除かれてあり、血を洗い流し、ハエがつかないようにホースで水がかけられていたが、一目で自分にはとても手におえそうもないことがわかった。

60kgはあると思われるイノシシを地面におろし、アスファルトの駐車場まで10メートルくらい引きずっていき、解体作業がはじまった。

 

まず、かわはぎ。肉屋さんは手慣れた手つきで皮下脂肪のところにナイフをすべりこませて、みるみる因幡のしろうさぎのようになっていく。ちょっとやってみませんかとナイフを渡され見よう見まねでやってみたものの、はかがいかない。結局先生がほとんどやってくれた。悲鳴以外はすべて食べてやろうという意気込みでいたが、時間的な余裕もないので、残念ながら、頭は取り外してそっくり埋めることにした。さぞたいへんな作業とおもっていたが、専門家の手にかかれば、ソケットをはずすようになんなくはずれた。

ゴルフ場のスタッフも協力してくれてこんどは丸裸にされたいのししをパワーショベルでもういちどつりさげ、こんどは脊椎にそって2枚におろす作業にとりかかる。  続く | その2 |  

 


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