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   猪食いつく誌(その2)       大河原新太郎


押すときに切れる西洋の鋸でゆっくりではあるが、着実に作業はすすむ。みごとにまっぷたつにきれた固まりは むかし肉屋の冷蔵庫にぶらさがっている、豚肉の姿のとおりだった。野生の獣の臭いも全くしなかった。脊髄は絹ごし豆腐のような、生クリームのようなもので以前はグルメの垂涎の対象であった。BSE騒ぎ以降は、牛の場合だが、他の部位を汚染しないように特別な配慮祖しながら取り除いている。

われわれも、残念ながら、水できれいに洗いおとした。これで現場での解体は終わり、冷蔵車に乗せて我が家に戻った。事前にメールで連絡をしておいたので、興味を持った仲間10人ほどがあつまってきた。一通りの記念撮影の後、たたみ1畳分のパネルに2枚の固まりを乗せてみると、猪なべなんかで食い切れる量ではなかった。気を取り直してどう始末するか相談する。

後ろ足はハムに。ロース、ヒレ、はしゃぶしゃぶ、スペアリブ、猪なべ用と切り分けてもらうことにし、残ったものは挽肉にして、ハンバーグとサラミソーセージにすることになった。肉屋さんから挽肉機を貸してもらって部分肉にならないところは挽肉にし、いろりのうえに金網をのせ、乗せられるだけのハンバーグをつくり、残りは香料と一緒にこねて、直径10センチの人造ケーシンクにつめたところ長さ20センチくらいのものが5本もできた。

ポリバケツに塩漬けにした。数ヶ月もすれば、浸透圧で水分が絞りとられぎゅっとひきしまったサラミができるはずだ。

前足は、トンソクと同じでゆっくりと煮ればゼラチン豊富な料理ができるはずとばかり、期待に胸をはずませてとりかかる。肉屋さんの説ではさっとゆがけば、毛抜きで剛毛を抜くことができ、トンソクと同じようになるはずだったが、ブラシのようにびっしりとはえた剛毛は1本たりとも抜けない。もう一度茹でてもだめ、かみそりでそろうとしても刃が立たない。結局かわごとむいてしまえば軟らかな掌もどこにいってしまったのか、のこるのは骨ばかり熊掌ならぬ猪掌のスープはまぼろしとなってしまった。

 

当日はしゃぶしゃぶを食べきれないほど食べたので、ハンバーグまでにまで手を出すものはいなかった。金網で焼いたハンバーグはいろりの1.5メートルくらい上部の1メートル四方の金網においたまま寝てしまった。翌日、いろりのまわりに苦労して焼き上げたハンバーグがいろりのまわりに転がっていた。のらねこがダイビングして金網を吊っていいた針金切ったため地上にばらまかれてしまったらしい。量が量だけに彼らが食べたのはほんの1部だったが、半分以上は捨てなくてはならなかった。

今年の収穫祭は当然のことだが、いのししづくしで終始した。しゃぶしゃぶ、猪なべ用の肉は肉屋さんが営業用の冷蔵庫で保存してくれた。おかげで当分の間は当初と変わらない鮮度でしゃぶしゃぶを楽しむことが出来た。まだ多少は、楽しむことができるはず。これから、去年の春仕込んだブタの足1本を水洗いして、寒風にさらす作業をはじめるつもりだ。5月ころにおいしい生ハムが出来上がっているはずである。その頃になれば、山菜、ルバーブのパイ、などまた別の恵の恩恵にあずかる季節になる。農作業のあとの地ビールが一層おいしくなるはずだ。   戻る | その1 | 


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