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隠れ宿「財産目当ての森」 おくのほそ道 紅葉の旅
2021年10月26日〜30日
10月21日は葬儀に出席した。50数年前からの寝食を共にした親友の逝去だった。
寂しい旅になるだろう。亡き友の笑顔を偲びながら陸奥の紅葉を見てきた。
月日は百代にわたって旅を続けて行くものであり、来ては去り去っては来る年々も、また同じように旅人である。舟の上に身を浮かべて一生を送り、旅人や荷物を乗せる馬をひいて生涯を過ごし、老年を迎える者は、日々が旅であって、旅そのものを常のすみかとしている。芭蕉の『 おくのほそ道 』
『おかえりモネ』のモネちゃんに会う。
最初は三陸海岸の気仙沼を訪れた。
2011年の東北大震災の津波で流された町である。
「あの時、大切な人たちと同じ場所と時間を共有することができなかった」
「相手の痛みを思いやる」
これはモネちゃんの後悔の気持ちなのだ。素晴らしいドラマだった。
彼女のポスター写真だけで満足できた。
銘酒『男山』本店酒蔵は大正時代のレトロ調建物で復元されていた。
気仙沼の復興と繁栄を祈ろう。
隠れ宿『果実の森』
本格的なオーベルジュ( Auberge)である。
そこの源泉かけ流し檜風呂は疲れた身体を癒す、やわらかいお湯であった。
全客室に檜内風呂が完備されていて部屋も綺麗で大きい。料理はフレンチ海鮮といえる。豪華な高級感たっぷりの時間を楽しめた。
貧乏学者夫妻にとり最後の晩餐になるだろう。
隣に普通の日帰り温泉があった。雰囲気は一変し日本の大衆浴場のようだ。
小さな劇場で大衆演劇が公演されていた。劇団「夢の旅」という旅芸人一座。
湯上りのお年寄り達がさかんに拍手している。おひねりを投げ込む姿も見えた。
これが、本当の隠れ宿『果実の森』といえる。
猊鼻渓(げいびけい)の舟下り
これは読むことができない。地元観光の功労者、佐藤猊巌(さとうげいがん)に因む。何故、猊巌の鼻なのかよくわからない。猊鼻渓は、北上川支流の砂鉄川沿いに、高さ50mを超える石灰岩の岸壁が、およそ2kmにわたって続く。日本百景のひとつに数えられている。舟下りの折り返し点に大岸壁に突き出た「獅子(猊〜しし〜)ヶ鼻」があった。これが猊巌の鼻、「猊鼻渓」の由来なのだ。デジタル時代のスマホ人間の若者には読めない。漢字文化は衰退していくだろう。
中尊寺の金色堂
帰り道、平泉の中尊寺の金色堂に寄った。中国人のように金箔や黄金は好みの色ではない。セピアカラーの中尊寺こそが陸奥の郷土色に相応しい。世界文化遺産という名所にも興味はない。西欧人は、なだらかな里山や素朴な日本を探し求めている。映画のセットのようでも良いから、藁葺屋根と障子、東北の苔むした古民家の村と里山を再現してほしい。
定義如来
「定義する」という言葉は大好きだった。その昔、専門にした「概念理論」は物事をいかに抽象化するか、すなわち分類という概念をいかに定義する事から始まる。「定義理論」ともいえるだろう。
定義(じょうぎ)と読む。正式には「定義如来 西方寺」という。
如来様として多くの参拝者が訪れる。御祈祷を受けながら願掛けをするのが習わし。
境内には、山門、鐘楼堂、御廟「貞能堂」、手水舎、御守授所がある。なかでも総青森ヒバ作りの五重塔は厳かだ。
紅葉の最盛期だった。門前町に油揚げの名店があった。熱々の揚げたての油揚げに七味を振りかけて食べた。旨い旨い。
作並のオーベルジュ澤井亭
隠れ宿「財産目当て作並の森」という別名もある。オーベルジュとして隠れ宿『果実の森』と競うような名前である。そこは友人の名誉教授夫妻が経営されている会員制別荘なのだ。お二人の出会いは「財産目当て」の縁で熱く結ばれた。
誠に正直なお二人なのだ。お二人の願いは叶い、下記のアルゴリズム通りの結果になった。
「財産目当て」X 「財産目当て」= 「お金持ち」
現在は全日空作並支局長も兼務されている。ただし全日空とは「全」ての「日」が「空」いていること。
趣味は多彩。ジャズ喫茶めぐり、写真、ハイレゾオーディオなど。新型コロナ感染の時代になりナチュラリストへ変身された。
澤井先生は素敵なアルバムを眺めながら集中してLPを聴くのが憩いの一時であると信じている。
カメは、オーディオとは所詮「音を出す道具」であって主役は「音楽」と考えてきた。ところが清先生はまったく違う。真空管アンプやこだわりのスピーカーでハイレゾ音楽を楽しんでいる。さらに湯船の中でも Bluetooth対応防水スピーカーで音に溺れている。オーディオに生涯を捧げ、倒錯されてきた陶酔老人なのだ。
睦子女将の愛情のこもるホスピタリティは世界一である。松茸に始まる料理の数々の味は絶品。女将の力強い、華麗なお姿、ピザ窯を早朝から温める。運転ドライブの技。何から何まで見事に熟されている。
「財産目当て」の縁で熱く結ばれた作並長者夫妻からのおもてなし、これには心底嬉しくお礼申し上げる。隠れ宿「財産目当て作並の森」の御繁栄を心から祈りたい。
芭蕉の『 おくのほそ道 』
月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年(こぞ)の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。もゝ引の破をつゞり、笠の緒付かえて、三里に灸するより、松嶋の月先心にかゝりて、住る方は人に譲り、杉風(さんぷう)が別墅(べっしょ)に移るに、草の戸も住替る代ぞひなの家 面八句を庵の柱に懸置。
親友、「新太郎君」を偲ぶ陸奥の旅だった。ご冥福を心から祈る。
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